聖書 マタイ 12：38～42 宣教題 まことの「しるし」 説教者 中田義直
子どものころ、私が教会に行っているということを知った友人から「復活は科学的に証明されているのか」と問われたことがありました。そして、「科学的に証明できないならキリスト教は間違っている」ともいわれました。このように科学というのは多くの人から信じるにたるもの、信じられるものと思われています。ところが、人間は科学的な根拠を示されても感情的にそれを拒否してしまうことがあります。例えば、ハンセン氏病は人に感染する病として恐れられてきました。その結果、その病にかかった人は隔離された生活を送らなければなりませんでした。やがて、医学はその病の感染力が弱いことを明らかにしました。そして、薬によって治癒する病となりました。しかし、強い偏見から、ハンセン氏病患者を隔離していた法律はなかなか改正されることがありませんでした。科学的な証拠と示されても、私たち人間は偏見を持ち続け、自分の誤りを正そうとしないのです。科学的な「しるし」よりも、感情が勝ってしまい、感情的に拒否してしまう、という人間の「弱さ」があるからだと思うのです。
今日の聖書の箇所では、何人かの律法学者とファリサイ派の人たちがイエス様に「先生、しるしを見せてください」と言ってきたと記されています。イエス様は律法学者やファリサイ派の人々を厳しく批判していました。そして、たびたび彼らと論争をしてきたことが福音書に記されています。そして、律法学者やファリサイ派の人々は論争に勝つことができませんでした。しかし、彼らは自分たちの間違いを指摘されても、それを受け入れませんでした。ここで彼らが「しるしを見せてほしい」と言っているのは、イエス様が神に使わされた者だということの証拠です。
当時、人々はイエス様は神から遣わされた預言者であるとか、救世主メシアに違いないと考えていたようです。けれども、律法学者やファリサイ派の人々はそれを決して認めようとはしませんでした。イエス様の癒しや奇跡を知っていても、そして、聖書に関する議論で勝つことができなくても、彼らはそれを認めようとしません。多くの人々は、イエス様の癒しの出来事にふれ、教えを聞き、この方は神から遣わされた預言者だと受け止めていました。すでに「しるし」は与えられていたのです。しかし、それを律法学者やファリサイ派の人々は受け入れず、新たな「しるし」を見せてくれと言うのです。
この言葉に対してイエス様は「よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしを欲しがるが、預言者ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない」とお答えになりました。なぜ、よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしをほしがるのでしょうか。私たちがしるしを求めるとき、それは、相手の語る「言葉」が信じられない時です。身近なことから、政治や経済に関わることでも言葉が信じられなくなるときに、人々は「しるし」を求めます。それは、信頼が失われていることを示しているということもできるでしょう。
律法学者やファリサイ派の人々は、聖書のことをよく知っていました。そこに記されている神様からのメッセージも、また、人間がどのような過ちを犯してきたかも知っていました。しかし、知っていることでも自分たちに不都合なことには耳をふさいでいたのです。そして、それは律法学者やファリサイ派の人々のことだけではありませんでした。この時、イエス様を神の子と崇めていた人々、きっとこの方こそ神から使わされた預言者だと思っていた人たちも、やがてイエス様に向かって十字架につけろ、殺してしまえと叫び声を上げていくのです。彼らもまた、目にしてきた奇跡、心動かされた教えなど与えられていた「しるし」よりも、自分たちの感情や利害に心を奪われたのです。「しるし」を求める私たちは、しかし、自分に不都合な「しるし」や感情的に受け入れることのできない「しるし」を拒んでしまいます。
イエス様は「預言者ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。 つまり、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、大地の中にいることになる」とおっしゃいました。これは、イエス様ご自身の死と復活を示しています。言い換えればこのことだけがイエス様が神から遣わされた方であることの「しるし」であり、イエス様が神から遣わされた救世主、メシア＝キリストの「しるし」だとイエス様はおっしゃるのです。イエス様はご自分の癒しについて、「悪霊の頭ベルゼブルによって、悪霊を追い出している」というファリサイ派の人々の誹謗中傷に対して、「わたしがベルゼブルの力で悪霊を追い出すのなら、あなたたちの仲間は何の力で追い出すのか」と問いかけられました。このことは、イエス様以外にも癒しを行う人々がいたことを示しています。しかし、人間の罪を背負い、赦しのために死に、そして、復活によって赦しの完成を証ししてくださった方はほかにはいません。そして、神の遣わしてくださったメシヤ、救い主は私たちを罪から救い出してくださる方です。この救いを私たちに与えてくださるのは、ただ、イエス様だけなのです。パウロはローマの信徒への手紙の5章にこう記しました。
「1 このように、わたしたちは信仰によって義とされたのだから、わたしたちの主イエス・キリストによって神との間に平和を得ており、2 このキリストのお陰で、今の恵みに信仰によって導き入れられ、神の栄光にあずかる希望を誇りにしています。3 そればかりでなく、苦難をも誇りとします。わたしたちは知っているのです、苦難は忍耐を、4 忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。5 希望はわたしたちを欺くことがありません。わたしたちに与えられた聖霊によって、神の愛がわたしたちの心に注がれているからです。6 実にキリストは、わたしたちがまだ弱かったころ、定められた時に、不信心な者のために死んでくださった。7 正しい人のために死ぬ者はほとんどいません。善い人のために命を惜しまない者ならいるかもしれません。8 しかし、わたしたちがまだ罪人であったとき、キリストがわたしたちのために死んでくださったことにより、神はわたしたちに対する愛を示されました。9 それで今や、わたしたちはキリストの血によって義とされたのですから、キリストによって神の怒りから救われるのは、なおさらのことです。10 敵であったときでさえ、御子の死によって神と和解させていただいたのであれば、和解させていただいた今は、御子の命によって救われるのはなおさらです。11 それだけでなく、わたしたちの主イエス・キリストによって、わたしたちは神を誇りとしています。今やこのキリストを通して和解させていただいたからです。」
かつて、預言者ヨナの言葉を聞いて、それを受け入れ、悔い改めたニネベの街の人々のように、復活したイエス様が私たちに与えてくださった良き知らせ、救いの福音を受け入れ「イエス様は私の主、私の救い主」と告白するものでありたいと願うのです。
－祈り－
主なる神様、あなたの導きの中でここに呼び集められ、共に主の日の礼拝を捧げる幸いに感謝いたします。
主よ、私たちの罪をゆるすためにイエス様を世に遣わしてくださいました。そして、十字架の死と三日目の復活を通して、神様の限りない愛と救いを私たちに伝えてくださいました。「7 正しい人のために死ぬ者はほとんどいません。善い人のために命を惜しまない者ならいるかもしれません。8 しかし、わたしたちがまだ罪人であったとき、キリストがわたしたちのために死んでくださったことにより、神はわたしたちに対する愛を示されました」とパウロが記した、あなたの愛を受け入れ、イエス様を私の救い主と告白しつつ歩む私たちでありますよう、聖霊の助けと導きをお与えください。
この祈りと願い、主イエス様の御名を通して、あなたの御前にお捧げいたします。アーメン
ー聖書ー
12:38 すると、何人かの律法学者とファリサイ派の人々がイエスに、「先生、しるしを見せてください」と言った。12:39 イエスはお答えになった。「よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしを欲しがるが、預言者ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。12:40 つまり、ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、大地の中にいることになる。12:41 ニネベの人たちは裁きの時、今の時代の者たちと一緒に立ち上がり、彼らを罪に定めるであろう。ニネベの人々は、ヨナの説教を聞いて悔い改めたからである。ここに、ヨナにまさるものがある。12:42 また、南の国の女王は裁きの時、今の時代の者たちと一緒に立ち上がり、彼らを罪に定めるであろう。この女王はソロモンの知恵を聞くために、地の果てから来たからである。ここに、ソロモンにまさるものがある。」
