聖書 マタイ 14：13～21 宣教題 イエス様の祈り 説教者 中田義直
イエス様がわずかなパンと魚で男だけで五千人という大勢の人々の空腹を満たしたという、「五千人の給食」の出来事は、私たちクリスチャンにとってなじみ深いイエス様のなさった奇跡ではないでしょうか。私も子どものころ、教会学校でこの話を聞いたり、紙芝居を見たりして本当に素直に「イエス様はすごいなー」と思いました。そして、子どもの頃はオヤツがもっと食べたいなーと思った時に、イエス様のような力があったらおなかいっぱい食べられるのにと、今、考えるとおかしく思うほど無邪気にこの物語を受け止めていました。やがて、こんなことはあるはずはないと思ったり、これは、教訓的な物語のように何かを伝えるために作られた創作と考えたこともありました。
奇跡をどう考えるか、それは、私たちクリスチャンにとって聖書のメッセージを受け止める時に避けて通ることのできないことだと思います。私は奇跡は実際に起こったと考えます。そして、奇跡は創作された物語ではなく、イエス様は奇跡を起こし、奇跡を通して私たちに語りかけておられるのだと思うのです。旧約、新約を通して神様は人間の力や常識を超える出来事を示されることがあります。そして、それを通して神様は私たちに語りかけておられます。
ところで、今日の聖書箇所マタイ14章13節にはこう記されています。「イエスはこれを聞くと、舟に乗ってそこを去り、ひとり人里離れた所に退かれた。しかし、群衆はそのことを聞き、方々の町から歩いて後を追った。」
「イエスはこれを聞くと」と記されています。イエス様が聞いたこと、それは領主ヘロデによるバプテスマのヨハネ殺害の知らせです。ヨハネが、理不尽な仕方でとても残酷な殺され方をした、ということがイエス様の耳にも入ったことでしょう。このことを知ったイエス様は「舟に乗ってそこを去り、人里離れたところに退かれた」のです。 イエス様は公の活動を始めるとき、ヨハネからバプテスマを受けました。また、「女から生まれた者の中でヨハネより偉大なものはない」と言っておられました。イエス様は若い時にバプテスマのヨハネのもとで学んだという聖書の学者もいます。イエス様にとってバプテスマのヨハネは大切な存在でした。ですから、ヨハネが殺されたという知らせを聞いた時、イエス様は一人静かに祈りたいと思ったのではないでしょうか。しかし、群衆たちはイエス様のもとに押しかけていったのです。
イエス様は舟から上がると、ご自分を待っている群衆たちに対して深い憐みの思いを抱かれました。イエス様はご自分のことよりも群衆たちを大切にされました。そして、これは私の想像ですが、この時イエス様の弟子たちは群衆たちに対して苛立ちを覚えていたのではないかと思うのです。ヨハネの死によって、どれほどイエス様が悲しみ心を痛めておられるかということを身近なところにいた弟子たちは感じ取っていたことでしょう。そんなイエス様に対して何を配慮することもなく、群衆たちは押し寄せてきたのです。しかも、食べ物の用意もせず、後先考えずにやってきたのです。実に無計画で無責任な群衆たちです。しかし、このことは、彼らがどれほど困難な状況の中に置かれていたか、どれほど切羽詰まっていたかを物語っているともいえるでしょう。そして、群衆たちを憐れみを持って受け入れられたイエス様は群衆たちの背負っている困難、痛み、嘆きを受け止めておられたのです。
イエス様は群衆の中の病人を癒されましたが、何人の病人がいたのでしょうか、時間は過ぎ、夕暮れ時になってしまいました。そこで弟子たちはイエス様に「ここは人里離れた所で、もう時間もたちました。群衆を解散させてください。そうすれば、自分で村へ食べ物を買いに行くでしょう」といいました。これは、現実的な助言といえるでしょう。しかし、男だけで五千人という群衆が食べ物を求めて近くの村に行ったとして、果たして食べ物を得ることができたでしょうか。現実的に見える弟子たちの言葉ですが、そこには、もうこれ以上この群衆の面倒を見ることはできないという思いがあったのではないでしょうか。ところがイエス様は弟子たちに、「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい」と言われたのです。どう考えてもこれは無理なことでしょう。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません」という弟子の答えには「これだけのものでどうしてこの群衆に食べ物を与えることができるでしょうか、とても無理なことがお分かりにならないのですか」という思いが込められているように感じます。そしてそれは極めて全うな「思い」でしょう。
「ここにはパン五つと魚二匹しかありません」という弟子の言葉にイエス様は「それをここに持って来なさい」と言われました。そして、聖書にはこのように記されています。「 群衆には草の上に座るようにお命じになった。そして、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて弟子たちにお渡しになった。弟子たちはそのパンを群衆に与えた」のです。そして、さらに聖書は「 すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二の籠いっぱいになった。食べた人は、女と子供を別にして、男が五千人ほどであった」と記しています。
この出来事を通して、イエス様は何を示されたのでしょうか。もちろんそれは、人間の常識を超えるイエス様の力がここには示されています。そして、それとともにイエス様はこの驚くべき出来事を通して、弟子たちに語り掛け、模範を示されたのではないでしょうか。男だけで五千人という群衆を前にして、弟子たちの手元にあったのは「五つのパンと二匹の魚」だけでした。このあまりに少ない、わずかな食べ物を手にしたイエス様は「天を仰いで賛美の祈りを唱え」られたのです。懇願でも、嘆きでもなく、賛美の祈りを唱えられました。この群衆たちに糧を与え、力を与えたのは主なる神様です。神様が与えてくださった食べ物を感謝し、賛美する。そこに、私たちの考えや常識を超える出来事が起こるのではないでしょうか。
パウロは自らの体にあるサタンによってもたらされた棘（きっと痛みを伴う病のことでしょう）を取り除いてほしいと神様に三度祈りました。三は完全数ですから、必死に何度も祈ったということでしょう。しかし、その棘は取り除かれることなく、「私の恵みはあなたに対して十分である」という神様の声を聴いたのです。この言葉を聞いたパウロは、棘を取り除いてくれない、つまり、癒してくれない神様を罵ったり、失望したでしょうか。パウロはこう記しています。「12:9 すると主は、「わたしの恵みはあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ」と言われました。だから、キリストの力がわたしの内に宿るように、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇りましょう。12:10 それゆえ、わたしは弱さ、侮辱、窮乏、迫害、そして行き詰まりの状態にあっても、キリストのために満足しています。なぜなら、わたしは弱いときにこそ強いからです」。
「五つのパンと二匹の魚」とは、五千人という群衆の前に無力であり、弱さです。しかし、この弱さを通して神様は五千人を養うという大きな力をお示しになったのです。弱さの中にあるときでも、今すでにある「神の恵み」に気づくとき、私たちの心には賛美の祈り、賛美の歌があふれてくるのではないでしょうか。
弟子たちは、イエス様の祈りの心を合わせたことでしょう。そして、彼らはイエス様に従い、イエス様から渡されたパンと魚を人々に配りました。「こんなわずかなもので、いったいどんな意味があるのか。まったく無理なことだ」などとつぶやくことなく、主の言葉に従いました。そして、この弟子たちの手を通して神様が働かれたのです。男だけで五千人という大群衆、そして、手元にある五つのパンと二匹の魚という現実は「私はパンも魚も配りません。こんなことをしたって何の意味もない」といってイエス様の言葉に従わない十分な理由となるでしょう。イエス様の言葉に、信じない理由、従わない理由はいくらでも用意できるでしょう。しかし、弟子たちは従いました。そして、この大きな出来事の目撃者となったのです。
ー祈り－
主なる神様、あなたに呼び集められ、共に礼拝を捧げる幸いに感謝いたします。
主よ、私たちは目の前の現実に心が奪われてしまいます。現実を受け入れることは大切ですが、心を奪われ、恵みに気づかず祈ることを忘れ、そして賛美を忘れてしまいます。
主よ、私たちは弱さを覚え、無力を嘆きます。主よ、どうぞ私たちを聖霊によって導き、今、ここにある恵みに気づかせてください。私たちの弱い心にあなたを賛美する祈りを与えてください。そして、主のみ言葉に従うことができるよう、上よりの力をお与えください。
この祈りと願い、主イエス様の御名を通して、あなたの御前にお捧げいたします。アーメン
ー聖書ー マタイによる福音書１４章１３節～２１節
14:13 イエスはこれを聞くと、舟に乗ってそこを去り、ひとり人里離れた所に退かれた。しかし、群衆はそのことを聞き、方々の町から歩いて後を追った。14:14 イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て深く憐れみ、その中の病人をいやされた。14:15 夕暮れになったので、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、もう時間もたちました。群衆を解散させてください。そうすれば、自分で村へ食べ物を買いに行くでしょう。」14:16 イエスは言われた。「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい。」14:17 弟子たちは言った。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません。」14:18 イエスは、「それをここに持って来なさい」と言い、14:19 群衆には草の上に座るようにお命じになった。そして、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて弟子たちにお渡しになった。弟子たちはそのパンを群衆に与えた。14:20 すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二の籠いっぱいになった。14:21 食べた人は、女と子供を別にして、男が五千人ほどであった。
